名物裂(めいぶつぎれ)の多くは貿易品として鎌倉時代から江戸時代中期までに貿易にて舶載された最高級の織物。鎌倉時代に禅宗文化とともに伝来した高僧の袈裟や仏典の包み裂がその起源だと伝えられている。
室町時代以降の茶の湯の興隆とともに、名物道具の表装裂や茶入の仕覆に使用されるようになり、また大名家や社寺などで特に珍重されてきた裂地となり、総称して「名物裂」と呼ばれるようになり、由来によってそれぞれ名称がつけられた。
名物裂の名称が流布し、定まってきたのは風流茶人として名高い、不昧流(ふまいりゅう)茶道を大成した出雲松江藩七代目藩主松平不昧(1751〜1818)のころからといわれている。
織りの組織は「金襴」「銀襴」「緞子」「間道」「錦」「モール」「印金」「金紗」「海気」「ビロード」「風通」など多岐にわたっており、宋・元・明・清時代(10〜19世紀)の中国で織られたものがほとんどで、他に南方諸国や西欧のものもある。
茶人達は茶器や書画にとどまらず、名物裂にも自分達の茶道における姿勢や理念を見いだしたため一般への流通はなく、珍重され、益々希少価値的な存在として迎えられた。彼らの洗練された美的感覚が染織工芸に多大な影響を与えたのが名物裂と言える。
現在約500種近くの名物裂が確認されている。
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